収益性の高い企業が取り入れている経営手法「ファブレス経営」。
言葉としては知っているけど、具体的にどんな経営手法なのか、どんなメリットがあるのかわからない、という方は多いのではないでしょうか。
この記事では、ファブレス経営が気になる方に向けて、ファブレス経営を導入するために必要な基本的な知識を解説いたします。
ファブレス経営とは
ファブレスとは、fabrication facility(工場)とless(ない)を組み合わせた言葉です。
この言葉の意味からもわかるとおり、自社で製品を生産する工場を持たず、製品の企画・設計・マーケティング・販売などのコア業務に注力する経営手法がファブレス経営と呼ばれています。
ファブレス経営は、1980年代のアメリカのシリコンバレーで初期費用を抑えるために、発明されたビジネスモデルです。
ファブレス経営と〇〇〇って、どう違うの?
ファブレス経営と混同しやすい言葉はたくさんあります。
その中でも特に混同しやすい言葉をピックアップして、ファブレス経営とどう違うのかを解説いたします。
ファブレス経営とアウトソーシングの違い
ファブレス経営とアウトソーシングの違いを一言でお伝えすると、
・ファブレス経営=外部に生産する工程や機能を委託すること
・アウトソーシング=外部から業務に必要なリソース(技術やマンパワーなど)を調達すること
です。
そもそもファブレス経営は経営手法であるのに対し、アウトソージングはリソースを調達するための一手段。
ファブレス経営であってもなくても、アウトソーシングすることはあります。
ファブレス経営と商社の違い
ファブレス経営している会社は商社とどう違うのか、と疑問に思う方も少なくありません。
どちらも生産する工程や機能を持たないのため、混同しやすいのかもしれませんね。
商社はメーカーや小売店など、必要な物の取引を仲介することが主な役割です。
それに対して、ファブレス経営している会社は製品の企画・マーケティング・販売などは自社で行っているため、製品を自社で開発・販売することが主な役割、という違いがあります。
ファブレス経営とOEMの違い
OEMとは、自社で製造した物を他社のブランドとしてメーカーや小売店などに提供することです。
OEMは製造することが役割のため、ファブレス経営とは役割が大きく異なります。
ファブレス経営とは切っても切れない関係のファウンドリ企業
OEMと似た言葉に「ファウンドリ企業」という言葉がありますが、ファウンドリ企業もOEMと似ており、他社の製品の製造を請け負う企業のことを指します。
ファブレス経営している会社の委託先である「ファウンドリ企業」がないと、ファブレス経営はできないため、切っても切れない関係と言えます。
ファブレス経営を取り入れる4つのメリット
ファブレス経営を導入する企業はどんなメリットを受けられるのでしょうか。
最も大きなメリットは「初期投資を抑えられる」ことですが、その他のメリットも合わせて導入するメリットを解説していきます。
1. 初期投資を抑えて、製品を生産できる
そもそも、ファブレス経営という手法が生まれた理由も初期投資を抑えるためでした。
ファブレス経営では、自社で生産工程や生産機能を持たないため、工場を借りるもしくは設立する費用や、工場で働くスタッフの人件費、働くスタッフの教育コストなどをかけずに製品を販売できます。
資金力がない零細企業やスモールスタートした企業にとっては、かなり大きなメリットだと思います。
2. コア業務に集中できる
初期投資を抑えられるメリットの次に大きなメリットは、自社の利益に直結するコア業務に集中できることです。
例えば、企画がコア業務の会社であれば、生産工程にかけるお金や時間を、企画に集中させることで、他者と差別化した製品を生み出しやすくなります。
生産工程がコア業務ではない会社はファブレス経営を導入するメリットは大きいと言えます。
3. 市場ニーズや自社の要望に柔軟に対応できる
市場ニーズが変化するスピードはどんどん加速しており、一昔前に売れていたものがすぐに売れなくなる時代になりました。
自社工場で生産していると長期的なコストは抑えられますが、市場のニーズや製品改良のための仕様変化にスピーディに対応することには不向きです。
しかし、ファブレス経営であれば、依頼するタイミングごとに工場を切り替えられたり、仕様を変更できるため、市場の変化に柔軟かつスピーディに対応して、製品を生産・販売できます。
4. 生産コストが抑えられる
ファブレス経営であれば、季節性がある商品や流行に大きく販売量が左右される商品の生産コストが抑えられます。
売れる季節や流行している時期にだけ大量に生産を依頼し、売れない時期やタイミングには生産を抑えれば、生産コストは自社工場を持っている企業と比べて、かなり抑えられます。
自社工場を持っていると、生産量が少ない時期でも人件費をかかり続けます。
しかし、ファブレス経営では自社工場がないため、生産コストも柔軟に変動させられます。
ファブレス経営の2つのデメリット
これから紹介する2つのデメリットがあることを念頭に、ファブレス経営を導入しましょう。
導入の仕方や取引先との契約の仕方、関係性の構築次第では、デメリットを減らすことも可能です。
1. 品質管理が難しい
自社で生産に関するノウハウを持っておらず、製品の仕様設計や検品もどうしたらいいかわからないため、品質管理できない企業も少なくありません。
また、自社に生産に関するノウハウがあっても、外部委託した工場が仕様通りの製品を作れるように管理していくことはかなり難しいです。
自社で生産するノウハウを持っていない企業は、外部委託先の工場がどこまでサポートしてくれるのか、しっかりコミュニケーション取れるのかを注意して、外部委託先を決めましょう。
2. 製品がコピーされる可能性が高くなる
外部委託した工場から他社へ製品のアイデアや製品の仕様などが漏洩し、せっかく企画した製品のコピーが短期間で市場に出回る可能性があります。
生産を外部委託する際は、製品に関する情報が漏洩しないように契約書を交わしましょう。
ファブレス経営の成功事例
ファブレス経営を導入して成功している有名な企業をいくつかご紹介。
その成功事例から、ファブレス経営に成功するために必要なポイントを学びましょう。
Apple(アップル)
言わずと知れた有名企業、Apple(アップル)も実はファブレス経営なんです。
製品の企画・設計・マーケティング・販売に注力することで、競合の製品と圧倒的に差別化したiphoneやipadを展開でき、ブランドを作り上げることができました。
みなさんもご存知の通り、Appleのコアコンピタンスはそのデザイン力とマーケティング。
そのコアコンピタンスを活かすためにファブレス経営を取り入れた結果、圧倒的なブランドを築き上げ、成功できたのです。
任天堂
日本が世界に誇る企業「任天堂」はファブレス経営によって、おもちゃやゲームの短い製品サイクルに対応し、コストを抑えることに成功しています。
自社工場も持ってはいますが、検査や修理に特化させることで製造コストを抑えています。
キーエンス
日本で最も平均年収が高いキーエンスも、ファブレス経営の導入に成功しています。
キーエンスのコアコンピタンスは、開発力。
新商品の約7割が「世界初」あるいは「業界初」であることからも、その開発力の高さが窺えます。
そのコアコンピタンスである開発力にリソースを集中するために、組み立てや加工などの一部の生産工程を外部委託しています。
ユニクロ
世界にユニクロを展開するファーストリテイリングは、商品の企画・デザイン・製造の素材調達といったコア業務に集中するため、製造工程は外部委託しています。
外部委託先に依頼しっぱなしではなく、社内に品質管理するチームがあり、外部委託先の品質維持・向上に努めています。
伊藤園
緑茶飲料で最大手の伊藤園は、コア業務となる茶畑の育成や拡大と仕上げ加工に注力する一方でその他の製造は外部に委託しています。
委託先への品質管理もかなり厳格で、品質に問題があったらすぐに取引を中止しているそうです。
NIKE
世界的スポーツ用品メーカーのNIKEもApple(アップル)と同じように、製品の企画やデザイン、マーケティングに注力することで競合他社との差別化に成功しています。
また、法務や外部委託先の工場の品質管理にもしっかり入れており、高いデザイン性と機能性を両立した上で、マーケテティングにも成功できています。
ファブレス経営の導入に成功するためのポイントとは
ここまでファブレス経営に成功した事例を紹介してきました。
「どれも大企業なので、とても真似できない」と思うかもしれませんが、企業の大小問わず、成功するポイントは同じです。
注力するコア業務を見極める
ファブレス経営の最大のメリットを活かすためには、自社のコアコンピタンスを明確にし、そのコアコンピタンスを発揮するコア業務を理解する必要があります。
コア業務にリソースを集中するための経営手法なので、当然だと思うかもしれませんが、自社のコア業務を理解している企業は多くありません。
そのため、ファブレス経営を導入しようと考えている方は、まず自社のコアコンピタンスとコア業務を理解しましょう。
徹底した品質管理を行う
ユニクロや伊藤園、NIKEの事例をお読みいただくとわかるかもしれませんが、外部委託したら任せっぱなしではありません。
しっかりと自社でも品質管理する仕組みを作っています。
いくら良い企画とデザインでも、品質が伴わなければリピーターやファンは増えません。
そのため、ファブレス経営を導入する場合、どのように品質管理するかもしっかり決めておきましょう。
ファブレス経営をもっと知りたい方におすすめの本2選
ここまでファブレス経営の導入に必要な基本的な知識をお伝えしてきました。
基本的な知識だけではなく、もっと実践的なノウハウや考え方、事例を知りたい!という方にはこちらの本がお勧めです。
欧州ファブレス半導体産業の真実―ニッポン復活のヒントを探る!
イギリスのファブレス経営を導入している企業を例に、欧州半導体産業の現状と戦略について解説しており、ファブレス経営の本質が理解できる一冊です。
ファブレス小売業の品質保証
「ファブレス経営について、もっと初歩的なことを知りたい!」という方には、「ファブレス小売業の品質保証」がお勧め。
ファブレス経営の小売業が、企画から販売までの全工程にわたって責任を果たす方法を解説しています。
特に零細企業やスモールスタートした事業の経営者にとっては、ファブレス経営を理解する第一歩となる一冊です。
Kindle版は無料で49ページと少ないため、興味がある方はぜひ読んでみてください。
ファブレス経営を導入するメリットが大きい業界・業種
製品サイクルが短い、アパレル業界やおもちゃ・ゲーム業界の企業は、任天堂の成功事例からもわかる通り、導入するメリットは大きいです。
大企業だけでなく中小企業、零細企業もファブレス経営を導入するメリットは大きい、というよりもむしろリソースが限られている企業の方が導入するメリットは大きいと言えます。
また、製造業でもファブレス経営を導入できます。
生産工程を全て外部委託するのではなく、自社の強みが活かせない一部分の製造だけ外部委託することも、立派なファブレス経営です。
自社を成長させるための経営手法を探している方は、ファブレス経営の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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みんなのコア業務の運営会社が提供している作業代行サービス「みんなの代行」は、手作業による加工や電子機器の組み立て・配線、梱包から発送業務の代行など、ノンコア業務を代行しています。
業務の代行だけでなく、外部委託を行う際の業務設計や品質管理なども徹底サポート。
ファブレス経営の導入を検討しているけど、ハードルが高いと考えている中小企業や零細企業の経営者の方、自社ブランドの立ち上げやECサイトを運営している個人事業主の方はぜひお気軽にご相談ください。